3話
「やあ、ほじょりん君」
「……」
「どうかしたのかい浮かない顔して」
「トンボさんはいいよね、空を飛べて」
「なんだい突然」
「だってとても気持ち良さそうじゃないか。それにその羽があれば何処にだっていけるんでしょ?
あの高台だって、あの遠くに見える赤い屋根の家にだって簡単に飛んでいけるんでしょ?」
「そうだね。この羽があれば、あの高台だって、あの赤い屋根の家に
だって行けるよ」
「うわぁ、やっぱりトンボさんは凄いね。ねぇ、
空を飛ぶってどんな気持ちなんだい」
「そう聞かれるとなんて答えればいいか迷うな。
ボクらにとっては空を飛ぶことは特別なことではないから」
「そんなものかい?
ぼくは君がうらやましいよ。大空を飛んでみたいよ」
「そうかい。君はボクをうらやましいと思っているようだけど、
ボクは逆だな。君がうらやましい」
「なんで? ぼくは何も持ってないよ。空だって飛べないし、いつ捨てられるだってわからないんだよ」
「ほじょりん君、ボクはね、あと少しで死んでしまうんだ。
空を飛べるようになって一ヶ月ちょっとだったな」
「一ヶ月もそんな自由な生活が出来たなら十分じゃないか」
「ボクも最初はそう思ったよ。最初は一ヶ月もあるって。
でも気付けば残された時間はあと少しだ。今度子供が産まれる予定なんだけど、顔を見ることも叶わないよ。
それに比べて君は一度引退しても新しい人間の下でまた活躍できるかも知れないじゃないか。
一人だけじゃない、また新しい命が産まれれば二度、三度と使ってもらえるかもしれない。実際はどうなるかわからないけど、ボクみたいに死んでしまうことが決まっているよりも未来に可能性を感じながら生きることが出来る君がうらやましいよ」
「そうかい?」
「そうだよ、君がうらやましいよ。
ほら、日が暮れるよ、そろそろ帰らないと」
「さよなら、トンボさん」
「さよなら、ほじょりん君」
ぼくには未来を夢見ることが出来る……。
そんなこと考えたことも無かった。
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