4話
「ねぇ自転車さん。この前言っていた話なんだけど」
「なんのことだい?」
「"ぼくにしか出来ないこと"の話さ」
「あぁ、あの話か」
「ぼくね、あれからずっと考えていたんだ。
トンボさんは「君には未来がある」って言ってくれた。そう言われるとそうなのかもしれない。でも"ぼくにしか出来ないこと"というのはどうしても見つからないんだ。本当にそんなものがあるのかな? ぼくにはわからないよ」
「そうかい……」
「だから教えて欲しいんだ、自転車さんは"ぼくにしか出来ないこと"を知っているんでしょ?」
「でも僕が思っているだけで、君がどう思うかはわからないよ」
「それでも聴きたいんだ、駄目かな?」
「……。あのね、父さんが言っていたんだ。人間は補助輪を外して、初めて自転車に乗れた時が一番いい顔をするんだって。
その"最高の瞬間"を作り出すのは補助輪の力なしでは決して出来ないことなんだと。負けず嫌いの父さんは補助輪が外された後、
自分だけの力だけで"最高の瞬間"越えたいと思ったらしいんだ。
あの丘や、赤い屋根の家まで人間を連れて行ったんだって。
一度で駄目なら、二度、三度……。あきらめずに何処へでも……。
でもね、結局父さん一人の力では"最高の瞬間"を越えることは出来なかったんだって。補助輪さんが支えてくれていたから、
あの時の感動があったんだと、悔しそうに言っていたな。
その話をしていた時の父さんはなんだか変でさ、
口では「悔しい悔しい」って言っているんだけど、頬をゆるませて笑うんだよ、変でしょ?
僕はずっとその話を聴かされてきたからね、なんだか君がうらやましいんだ。
それに、こうやって父さんと同じように補助輪と一緒に仕事が出来ることを、とても光栄に思っているんだよ」
「ぼくと働くことが光栄なのかい?」
「そうだよ、補助輪と仕事が出来る自転車は限られているんだ。本当に君に会えて僕は幸せ者だよ」
「……。話してくれてありがとう、自転車さん」
ぼくは主役にはなれない、それは生まれ持った運命なのだから
仕方無いことだ。
でも今は一つ見てみたいものがある。
自転車さんと一緒につくる"最高の瞬間"を……。
おわり
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