ふりーものづくり所 かえると万年筆


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トゲなしコンパス〜ぼくは○○。番外編〜

4話

 あの日、咲崎の様子がいつもとは少し違った。
 咲崎が視線をそらすことなく、長い時間こっちを見ているだなんて初めての
ことで、僕にだってそれがいつもとは何か違うのだと感付くことくらいはできた。
 僕らは学校では関係がばれること出来るだけ避けて過ごしていた。放課後までの時間は、互いに一緒過ごすことはもちろん、ちょっとした会話をすることだって避けていた。それは僕が望んで約束してもらったことだった。
 だが、あの日はそうすることは許されなかったんだ。僕の中にすっかり根付いているモノがそうすることを拒んでいた。
 しばらくすると咲崎は、教室を一人で出て行ってしまった。何時もは決まった友達、親友の塩田多佳子とかと一緒に行動するはずなのに、なぜかそうしない
咲崎。
 僕の胸は正体不明の不安につつまれ、気づけば僕は椅子を引き、勢いよく立ち上がっていた。
「あれ、慎吾どっか行くの?」
 だらけた雰囲気の中、いきなり立ち上がった僕の行動は違和感たっぷりで、
やはりというか、山田が反応した。秘密を隠そうと言葉を探した。
「ああ、便所」
「あっ、俺も行こうかな」
「着いてくるなよ」
 焦った僕は思わず山田にきつい口調で言葉を投げつけてしまった。
「なんだよ。その言い方。あっ慎吾、そっか、そっか、あれか、大の方?」
「うるせーな。黙ってろよ」
 僕は2人に違った意味でからかわれながら、咲崎の後を追った。

 教室を出ると前方に小さくなった咲崎の背中が見えた。彼女は振り帰り、僕の姿を確認すると、屋上へ続く階段を早足で駆け上がって行った。
 屋上へ出る扉の前の躍り場。たたみ何畳分もないそのちょっとした空間で話をした。
「今日は委員会の集まりがあるから少し遅くなりそうなんだけど、
待っててくれる?」
 重い表情を隠すように俯いていた咲崎が、ゆっくりと顔を上げて発した言葉の内容に僕は拍子抜けした。
「べつに、いいけど」
「本当?」
「うん」
「ありがとう。待たないって言われたらどうしようかと思ったよ」
 たいしたことではないのに、僕の答に大げさに喜こぶ咲崎は、さっきまでのことがまるで嘘であったかように、いつものように微笑んだ。この笑顔が僕の胸をいつも貫くのだ、あまりにもそれは刺激的なほほえみだった。
「じゃあ私が先に教室に戻るね。一緒だと皆に怪しまれちゃうもんね」
「そうだね」
「じゃあ、放課後にね」
「うん」
 咲崎は僕に手を振ると、さっき上がって来たばかりの階段を足早に下りていった。まるで犯人を尾行する刑事のように周りの様子をうかがいながら教室へと向かう咲崎の後ろ姿を見送った僕の胸は、微かに痛んだ。  



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