1話
工場を出た時は、本当にワクワクしてました。
夢だって広がってましたよ。
風を気持ちよくきって、いろんな景色を見て。休みの日には綺麗に
お手入れしてもらって……。
そんな日々を思い描いてました。
自分、そんな日々が当然のように訪れるものだと思ってました。
工場で働く従業員さんには「お前はいいよな、金持ちに大切にされるんだろうな」と羨ましがられ、
仲間からは「いいなお前は、俺はきっと豪勢な生活は出来ないと思うよ」と憧れの眼差し。
とにかく注目の的でした。
毎日そんな扱いをうけて、正直ちょっと天狗になっていたのは
反省します。
だから……だからね、反省してますから早いとこ売り払って
くれませんか? ねぇ、ご主人。
自分、中古になりたいんです。人生やり直したいんです。
おねがいします。おねがいします。
「オラッ、おんどれ何しとんじゃ!」
ひー、またかよ。また始まったよ。怖いわー。本当に怖いわー。
ボコ ばき ボコ
あーあ。今日はまた一段と派手ですね。
あー痛そう。
あの兄ちゃん、組に入ったばかりじゃないのかな、すっかり
びびっちゃってるよ。
僕は真っ黒なボディが自慢です。ピカピカな時の僕は、それはもう鏡のようですよ。本来、透明で外を鮮明に見ることができる窓には、
現在黒いフィルムが張られてすっかり外部からは中が見えなくなってます。
この黒いフィルムは何かしらやましいことがある印なのでしょうか……。
ご主人に買われてからは、刺激という意味では充実してます。
ここに来てそんなに経過してないのに何度も修羅場に遭遇してますから。
それはもう身の毛のよだつ修羅場に……。
あぁ、現実は厳しいな。
幸せな家庭に買ってもらい大事にされるなんて、僕には叶うはずのない夢物語だったんだ。
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