ふりーものづくり所 かえると万年筆


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黒塗りいさお 第2話

2話
売り場にいた時はね、毎日のように店員さんがホコリを優しく払って
くれたり、本当に丁寧に扱ってもらっていました。
「お前は高級なんだから凛としてろ」とか言われ、
次第にプロ意識も芽生えたんです。
恥ずかしい話、お店に最初に来た時はプロ意識に欠けていたと
言われても反論できません。
それが店員さんのご指導のおかげで変わっていったんです。
品があるという事がどんなものか考え、ずいぶん成長したつもりです。とにかく胸張って展示されていたわけです。
そう、ご主人が現れた日も僕は胸を張って凛としていたと思います。
それがこんな結果を生み出してしまうとは、まさに後悔先に立たず
です。
ご主人が来た日、実はもう違うお客さんで決まりそうだったんです。その人は、そこまでお金を持っているとは思えない風貌でした。 初めて自分に目をつけた時は正直な所、「本当に平気なのかな」と心配したものです。でも月に一回は家族そろって三人で会いに来てくれましたし、 他の日にも旦那さんが小まめに通ってくれたんです。そして、旦那さんと触れて合っていくうちにわかったんです。 旦那さんは、毎月自分を買うためにいろんな事を我慢して、節約をして少しずつお金を貯めているんだと。やっと自分を買う目処が付いたから頻繁に通ってくれているのだと……。
僕も旦那さんの人柄に触れていく中に旦那さんに惹かれ、気持ちが動いていくのを感じていました。旦那さんが来てくれるのが楽しみになりました。試乗も何度もしてくれて、いい感じだったんです。この人の為なら僕は頑張れる。この人と一緒に風を切っていろんな所につれて行ってあげたいって心の底から思えたんです。旦那さんが僕に乗ったときの嬉しそうな顔、それを見て喜ぶ家族、本当にすばらしいですよね。
でもね、現実はいかせん厳しいもので……。
「組長、新車はどれにいたしますか? 前の抗争でポンコツになってしまいましたからね」
「ワシはベンツ一筋じゃ、生涯ベンツに決めとるんじゃ。それにせい」
威嚇をする為だけに存在するようなサングラスに、金のぶっといブレスレットをした恐そうなおじさんが僕を指差しました。
「かしこまりました、この車ですね」
その瞬間、主人決定です。あぁ、僕の人生返して。

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