ふりーものづくり所 かえると万年筆


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黒塗りいさお 第4話

4話
やった、やったよ。今、僕また売り場にいます。前みたいにクーラーのきいた室内での展示というわけではないですけど、 ちゃんと値札つけられています。紛れも無く『売り物』です。
今僕がいる所は、屋根もないところで最初に売られていた場所とは待遇もずいぶん違います。それでもいいんです。 少し前までの胸がキリキリする生活のことを考えたらこれでも十分です。
組での最後の抗争は、それは凄まじいものでした。飛び道具も出て大惨事です。けが人も沢山出たようですし、組もただじゃ済まなかったでしょう。そんな大変なことがあったのに僕が今なぜここにいるかと言うと、子分さんが恐れをなして僕を使って逃げ出したんです。 子分さんはお金を持っていませんでしたから、自分は売りに出されたわけです。とにかく平和が訪れたわけですから、あとは次のご主人がどんな人になるか、今はそれだけです。

なかなか新しい主人に出会えません。一体何年の月日が経ったでしょう。店も移り変わって今自分がいるのは初めから数えてすでに5つ目の店です。引き取られてから少し修理はしてもらったんですけど、前の主人が主人なので少し傷が多くて買い取り手がなかなか決まらないんです。値段は月日と共に少しずつ下がってはいるのですがね。
あぁ、このまま僕の人生は終わってしまうのでしょか。なんせ今は新車が100万円で買える時代ですからね。 値段が下がったとはいえ僕は腐っても高級車ですからそれなりに高くついてしまうんです。こうなってしまうと工場にいた時には自慢だったはずなのに、今では自分自身が妬ましいです。
「お客さん、ついてますよ。この値段での販売はうちとしても大勝負ですからね」
今日も店員さんがお客さんを連れて来たようです。今月で何人目だろうか、どうせ僕なんか相手にされないんだろうな。
「そうです、これですよ。昔買おうとしてたんですけど、いろいろあって買えなかったんです。そのあとタイミング悪く、型が変わってしまったでしょ? それで違う車にしたんですけど、やっぱりこいつが忘れられなくて……。探してよかったです」
あれっ! お客さんが僕に向かって近づいてきます。しかも聞き覚えのあるこの声は……。
ハッキリわかります、外見が少しだけ前とは違うけどわかるんです。メガネの下の少し気の弱そうな眼。何時もなぜか申し訳なさそうな話し方。昔もそうでした。雰囲気は昔と変わってません。
「じゃあこれにします。今すぐ下さい。実は昔あとちょっとの所で買い逃したことがあるんですよ」
あぁ、その歯茎をみせて喜ぶ顔。
ありがとう、迎えに来てくれてありがとう。

おわり

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