4話
とうちゃんが折れた日。
それは突然の出来事だった。
いつものようにとうちゃんにぶら下がる息子さん。
そして……、笑うとうちゃん。
ぎっぎっぎ ぎっぎっぎ
それはおなじみの光景で、なんてことのない日常の1コマのはずだった。
ぎっぎっぎ ぎっぎ
ギギギ ギギギギギ バキッ
でも、その時は訪れてしまった。
とうちゃんの体はちょうど真ん中で2つに折れてしまった。
突然身体を地面に打ちつけられて、痛そうにお尻をさする息子さん。
その瞬間、ぼくも息子さんも何が起きたのか最初は理解出来なかったんだ。
いや多分、本当はわかってたとしても理解しようとしなかったんだ、少なくともぼくは……。
しばらくしてから息子さんは何があったのか確認するように上を見上げた。
でも、もうそこには空しかなかった、息子さんは空をただ呆然と見つめていた。
悲しはずなのに、とうちゃんの姿が消えたその時の空は、とても澄んでいてキレイだった。
そんな空とは対象的に息子さんからは血の気が引き、表情はみるみる内に強張っていった。
「なにがあったの?」
慌てた様子で奥さんが駆けつけて来た所まで、
辛うじて覚えている。
「大丈夫? だからぶら下がるなって言ったじゃない。あんたも昔みたいに小さいわけじゃないんだからね」
折れたとうちゃんは奥さんが棄ててしまった。
折れてしまった、ぼくら「ものほし竿」は
既に「ものほし竿」ではないんだ。
それは不要なもので、危険物に近い存在。
じゃまだし、折れた部分は尖って危ない。
利用できるものから、不要なものへの早代わり。
その晩、皆が寝静まった頃、暗闇の中で1人ぼくは泣いていた。
とうちゃんとの突然の別れに心の整理をつけられないでいたんだ。
そのとき障子が すっと 開き、光を失った庭を少しだけ照らした。
夜遅くに息子さんが出てくるなんて初めてのことで呆然と見ていると、
息子さんはゆっくりとぼくに近づいて来たんだ。
そして右手を差し出すと、今にも壊れそうな物にふれるように、優しくぼくを撫でてくれた。
「ごめんね。ずっと、ずっと一緒にいたのに……」
息子さんの手はとてもあたたかくて、ぼくはなんとも言えない気持ちになった。
だってぼくを撫でる息子さんの表情はとても優しくて、でも哀しみを内に潜めた今までに見たことのない複雑な表情だったから……。
強く握られた息子さんの左手には、とうちゃんのカラダの一部が、とても大事そうに握られていた。
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